正義は勝つ!~番外編その2~

前回の記事『正義は勝つ~番外編その1~』の、続きです。
まだお読みでない方は、こちらからどうぞ。

番外編だけでも、単独でお読みいただけると思いますが、ご興味がございましたら『正義は勝つ!~前編~』『正義は勝つ!~後編~』を読んでみてください。

 


さむいさむい夜の山、三人ともガタガタと体が震え始めました。

 

突然、A番長が道路を指さして、おおきな声で言いました。
A番長「あそこ!寮にきてる大人だよ、自分らを探しに来たんだ!どうしよう?もう、かなり寒いし、見つけてもらって、寮に戻ろう」
H「A番長、ちょっとまって!」
Hは、二人を引きとめました。
本当はHだって、とっくに早く、あたたかい寮に戻りたかったのです。そもそも、最初から寮を出たくなんてなかったのです。
でも、Hには“やること”が残っていました。
『もう、命を絶とうとするのも、寮を飛び出すのも、コリゴリだ!』と、二人に思わせられたかどうかの最終確認です。

Hは、二人にたたみかけます。
H「本当にいいの?Si(し)ぬんじゃなかったの?やめるの?寮に連れ戻されて、本当にいいの?」
A番長「本当にいい!さむい!もう、いやだ!早く帰る!」
H「わかった。じゃあ、大人に見つけてもらおう」

暗い山の中から明るい道路へと移動すると、すぐに大人が駆け付けて、二人を毛布にくるみました。
A番長と右腕Bは、泣きだしました。まだ、中学生の子供なのです。
Hは、ほっとしました。
二人を“無事に大人の手に戻せた”ことと、泣くくらいだから“コリゴリ”と思ってもらえたであろうことに。

 

寮に戻ると、ふたりとは別室での事情聴取がHを待っていました。
Hは“自分の思惑”を除いて、事実を淡々と伝えました。

ところが、「え~、それ、ほんとうなの?本当のことを話してる?」と、大人に言われます。
「え?なんで?」と、たずねるH。
「二人は、あなたが“Siぬ”というから、心配で一緒に行ったけど、なかなか寮に帰らせてもらえずに困ったといって...」
そこに、Hの父が「ご迷惑をおかけして、すみません」と、頭を下げながら部屋に入ってきました。
そしてHの前までくると、「ひとさまに、ご迷惑をおかけして!」と、怒鳴りながらHの頭を殴りました。
Hは、椅子から転げ落ちました。
周りにいた大人たちは慌てました。
「子供のすることですし、こんな夜中まで寒い山の中にいたんですから、今日はご実家に一緒に戻られて、あたたかいお風呂に入れてあげてください」

 

父の車の助手席に座ると、Hは父に言いました。
H「こんな夜中に迎えに来てもらうことになって、悪かったね」
父「おう」
車は無言のふたりを乗せ、自宅への道を走り続けました。
真っ黒な夜が支配する道路。
一定のリズムで目に飛び込んでくる光を受けながら、Hの目から一粒のしずくがおちました。
やがて雫は次々と重なっていきました。
“人前では泣かない”と、幼い頃から心に決めていたHでしたが、あふれでる涙をとめることができませんでした。

 

家に着き、Hが布団に入ると、父が母に言葉をかけるのが聞こえました。
父「反省しているみたいだから、今日はこのまま寝かせてやってくれ」
Hは心の中で思いました。
『私は反省などしていない。二人の命を守り、ケガもさせずに寮に戻したのだ』
『真実を話しても、大人に疑われた。父に至っては、話さえ聞かずにこぶしをふるわれた。だれも、自分を理解する人間はいない。理解しようとさえ思わないのだ』
『私は孤独だ。その孤独に、私は涙したのだ』

でも...と、Hは思う。
『こんな夜中に大人たちの手を借りることになったのは、反省することだ。悪かった。自分の力不足で、騒動になる前に、二人をなだめて寮に連れ戻すことができなかった』
『二人は大人に嘘をついたのだろうか。 自分のしたことが恥ずかしかったのか? こんなオオゴトになったから、罪をなすりつけようとしたのか? それとも、最後に私が引き留めたことだけを伝えて、大人が勘違いして受け取ったのだろうか...』

答えの出ない問いかけをしながら、いつしかHは、眠りに誘われていくのでした...。

 

~つづく~


『正義は勝つ!~番外編その3~』はこちら

 

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Posted by Hikaru